公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『キャッツ』 / 劇団四季

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Google+ からこのブログに観劇記録を移行するにあたって、ほぼすべての記事を見直したり加筆修正したりしているのですが1、当時は年間に観たものを年末に思い出しながら適当にメモをするというスタンスで行っていたため、 いちいち他のエントリの permalink 等を貼りつけたりはしていなかったという経緯があります。同時に、Google の検索性というものがここ数年で悪化の一途をたどっており、当時は拾えたような野良のエントリが簡単には引っかからなくなってきてもいる。あるいはジオシティーズに代表されるような、昨今の個人ホームページ提供サービスの終了のあおりで、実際にウェブ上から消えてしまった感想も少なくはないのだと推測することもできますが、真実のほどは定かではありません。

というわけで、どこかで「キャッツは VR だ」みたいな主張を読んだ気がするのですが、引用ができない状態です。

弁明は程々にしておいて、確かにオープニングから 2 階席の客席にまで“猫”がやってきて、否が応でもあの物凄い仮装を観客の視界にねじ込んでくるわけです。そもそも演劇というものは、開演した瞬間から板の上は、ある種の仮想現実であります。そこでは、観客にとっての現実世界へ芝居が侵入しているのではなく、板の上の世界が観客の五感を支配しているということに他ならない。これは Mixed(あるいは Merged)というよりは、Virtual Reality の成立でありましょう。しかしながらキャッツのように隅々の観客にまで世界観をいきわたらせる配慮は、VR ゴーグルの没入感に通じる視覚体験を提供するとともに、ある種の Argument な体験を付与するともいえる。客席にまで入ってきたり、客いじりをしたり、あるいは客の目の前でカップ蕎麦の早食いを始めたり、といった芝居も今となっては幾つか観てきたわけですが、2 階席のような悪いグレードの席までやってきて上述のような強化された体験を提供する演劇は、『キャッツ』の他にまだ観たことがありません。界隈きってのユーザー体験があると思います。キャッツは AR か MR なのかもしれないな。

話の内容は、「キリスト教圏的価値観が日本人には云々~」みたいな感じで語り尽されているように、文化的に理解の素地が無い者にとってはよくわからない、というより、何がわからないのかもわからないような代物だと思います。元が詩集ということで、確たる物語性が担保されているわけではないというのもあるでしょう。さらに「猫の」「娼婦が」ただひとり天に昇る権利を得るという、キリスト文化圏から見てもひとひねり加わっている点が、この作品への考察あるいは議論を尽きさせなかった理由のひとつなのだろうとは思います。文化的素地が無い以上、憶測の域を出ませんが。

オタクになってくると、今回の公演では誰がどの猫を演っているのか、なるほど、という楽しみ方も生じてくるらしく、パンフレットを購入してあーでもないこーでもないとその場レビューしているお客様が一定数いらっしゃいます。個人的には、単純にミュージカルそのものを楽しみたいのであれば、劇団四季の他公演、例えば 『アラジン』 などのディズニー系を観た方が楽しめるのではないかと思います2

ミュージカルとしてはあまりにも有名な演目であるため、日本の小劇場芝居でもパロディネタに用いられることがあります。『朝日のような夕日をつれて3』で突然はじまるジェリクルキャッツ選考会や、 『スーパーストライク』 でミュージカル俳優志望の横手南くん4が部屋で「ジェリクルソング」を口ずさみ始めるやいなや、そこから根本演劇必殺ともいえる“飛ばし”に入るトリガーとして利用されるなど。キャッツに限らず、ミュージカルはとりあえず素養として観ておくことで、別の観劇中によりニヤっとできる展開がおとずれるかもしれません。その良し悪しや好き嫌いはおいておいて、それほど内輪ネタやパロディ/オマージュネタが小劇場には散見されます。そのあたりを意識してミュージカルを観に行くこと自体、なかなか邪な駆動力だとも思うのですが、数年後、まさか本当に面白いミュージカルを劇団四季で浴びることになるだろうとは、このころは予想もしていなかったのでした5

編集履歴
  • 2018-07-15 作成
    • 2018-11-23 大幅に加筆修正
日時

  1. 中には 『今、出来る、精一杯。』 のように、完全に当時のレビューとは別物に変貌したものもあり。

  2. キャッツの場合は、開演直前に何人かの役者が舞台上に四足歩行で入って来る、その猫そのものをトレースしたかのような動きに度肝を抜かれるという瞬間があります。

  3. ‘87 版。選考は『トムとジェリー』のトムや『子猫物語』のチャトランが出てきて混迷を極めます。

  4. 演じるは田村健太郎

  5. そもそもこの『キャッツ』鑑賞は事実上 2 本目の観劇体験であって、小劇場のためとかいう意識すら芽生えていなかった。そのような意識が生じたのは 2016 年後半から 2017 年前半にかけてだったと記憶しています。