公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『グローブ・ジャングル』 / 虚構の劇団

虚構の劇団 | 第10回公演「グローブ・ジャングル」kyokou.thirdstage.com

例えば学童芸術鑑賞で観せられるような受動的なものではなく、能動的に観に行った初めての舞台演劇であり、それが今日まで続いていることになる。

きっかけは芝居とは直接関係はなく、大学時代の文化祭にその奇怪なパフォーマンスでキャンパスの一角を苛めぬいていた OB バンド(?)のメンバーがこの劇団に所属しており、彼が時折出演していたバンドの Podcast にて公演の告知宣伝が行われていたから。

今回の演目は「虚構の劇団」旗揚げ公演の再演にあたり、劇団にとっての特別な位置づけもさることながら、鴻上尚史の若手と作っていく、という旗揚げ当時の息巻きのような勢いも随所に感じるテンポと演出が感じて取れる。今よりももう少し SNS が外に開いていた頃のネット炎上による社会的な死と逃避そして再生をテーマに据えるという、小劇場演劇の時事的な取材の仕方にも、また、制限された不完全なセット…舞台美術から架空の大道具小道具が脳内で補完されて立ち上がっていく芝居特有の体験にも、衝撃を受けながら鑑賞を楽しんだ様を今でも思い出せる。


結果的に本作が観劇 1 本目で良かったと思っている。

  • ネットワークやコミュニティを主題に据えていたこと。

    • 私がインターネット人間なので、題材として卑近であった。

    • これらは遡れば第三舞台ピルグリム』あたりからの鴻上のテーマでもあり、伝言ダイアルパソコン通信→インターネットとプラットフォームを換え、またその発展にともない SNSTwitter)は個人と切り離せないツールにもなり得、“炎上”がテーマになるところまで来(てい)た。

      • その実、鴻上のネットワークに対する理解度は『ファントム・ペイン』あたりから変化していない気もするけど。
  • 演出が網羅的。

    • 開演時から役者が客席通路を練り歩く。芝居はその場にいる観客のフィードバックありきであるということを感じさせてくれる。

    • 舞台装置が説明過剰でないため、大道具小道具を脳内で補完していくという作業を初めてでも自然に行うことになる。

    • 良くも悪くも登場人物がアイコニック。戯曲の中で計算された駒のように動いていく群像の感覚は、比較的受容しやすかった。

      • 年を追うにつれてこの傾向は合わなくなってきたと感じ、結果的に虚構の劇団や鴻上尚史からは遠ざかっていくことになったという面もある。
  • 団員構成が過渡期であった(これが最重要)。

    • 事実上の看板俳優の立ち位置にいた山崎雄介(本作の初演でも主演を務めた)や、立ち上げ時からの主力女優陣であった大久保綾乃、高橋奈津季などが退団し、主要ポジションが客演という特徴的な編成での上演だった。

      • 山崎のポジションにはオレノグラフィティ(劇団鹿殺し)、大久保のポジションには根本宗子(月刊「根本宗子」)が入っていた。観劇対象を拡げていくときに、このような客演を伝っていくという手法を取っていったため、鹿殺しのオレノ、そして何をとってもこの初回観劇で根本に出会っていたことは、その後の演劇趣味の根幹を決定づけたといっていい。そういう意味ではこの時期(以降)の劇団の“看板俳優不在”のような状態は、偶然にも理想この上ない編成だったことになる。

      • 高橋のポジションには当時新人であった森田ひかりがキャスティング。今やポスト山下裕子の感が強い森田のキャラクターが固定される前で、以降『ビー・ヒア・ナウ』から適用されがちなバイタリティ路線とは異なる配役においても、新人組の中では頭ひとつ抜きん出た演技を見た気がする。

    • 虚構の“旅団”としての次作『ビー・ヒア・ナウ』においては、主役級の客演に津村知与支(モダンスイマーズ)を迎えており、こちらもまた虚構への客演を介して辿りつくことのできた劇団ということになる。虚構さまさまだ…

あらすじ

ひょんなことから連鎖的なネット炎上のターゲットに仕立て上げられ、日本で就職し生活していくこともままならない状態に追い込まれてしまった大学生の七海[演:小野川晶]。劇団を主宰していたが、台本が書けないスランプに陥って逆に劇団を追い出された沢村[オレノグラフィティ]。様々な事情を抱えた人間が別々にロンドンに渡り、しかし吸い寄せられるようにして現地の日本人コミュニティに集まっていく。彼らはロンドンの日本人学校の学童たちのために日本の昔話『桃太郎』を上演する劇団を立ち上げることになるが、“ここではないどこか”を求めてロンドンに集った若者たちの心情に呼応するように脚本は変貌していく…

七海の真の渡英目的は、自分を炎上に追い込んだ人物が現在はロンドンの日本人コミュニティにいるという情報を嗅ぎつけたからであった。七海や沢村といった(意識的・無意識的を問わず)自殺願望のある人間にしか視ることのできない、ロンドンの物件に棲む幽霊 住田[小沢道成]、日本では撤去の進む大型公園遊具“グローブ・ジャングル”に偏執をみせる長谷川[渡辺芳博]といったクセのある登場人物も絡めて、『桃太郎』上演への道程は進んでいく。

編集履歴
  • 2018-07-15 作成
    • 2019-01-05 大幅に加筆修正
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