公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『流山ブルーバード』 / M&Oplaysプロデュース 演出: 赤堀雅秋

明日、お前は何食べたい?


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なかなか渋い芝居でよかったです。生きづらい世の中を生きづらくしているのは、一体だれなんだろうみたいな。

4 人の男を中心に、流山でくすぶる現代の若者たちとその周辺の人間模様が描き出されます。この流山というのがまた絶妙。西東京でも埼玉でもなく、また千葉といっても柏でも木更津でもない。流山。

何も成し遂げられずに、このまま自分が何者でもなくなってしまうのではないか1…漠然とした不安に突き動かされるように、場当たり的に動いては、また元の魚屋の生活に収束する満[演:賀来賢人]。劇中では、もて余したその焦燥が人妻との浮気として駆動し、しかし沖縄への駆け落ちを約束した日には自らその待ち合わせをすっぽかす、といったワナビーイデアを邁進し続けます。この賀来、すごく似合っててやばいですね。

その満の浮気相手の旦那は、満の幼なじみである健[太賀]。結婚しマイホームも押さえ、一般的には何不自由ないとされる生活を手にしている彼は、カラオケスナックでの独り善がりな歌唱に表されるように、どこかつまらなそうな人間に描かれます。浮気に感づいていた彼がスナックで満に包丁を突きつけるシーンは、後述する伊藤との対比にもなって身につまされるテーマを出してきます。他者の生活を壊すという点において、殺人も浮気も変わりはないのではないか、と。

満や健と共通の友達である浩一[若葉竜也]は、流山で暮らす 2 人からすると憧れの東京人。ですがその実はボロ物件住まいの売れない俳優で、流山に帰ってきても実家には顔を出さない(出せない?)という点では、本質的に満と変わりのない日々を送っているに違いない。彼も、友人らにとっての憧れである東京にいながら、現状に甘んじた維持を受動的に選択している。満や健以上に変化の予兆も無さそうなその生活は、本当に精神的な頽廃、あるいは死を匂わせます。

彼ら 3 人とは関係なく流山に身を置く伊藤[柄本時生]は、現在流山市を不安の渦に巻き込んでいる連続殺人事件の犯人なのではないか?という描かれ方をされます。人殺しを明確に行う描写は存在しないものの、通行人の舌打ちに対する過剰反応やファミレスでの激昂、他人の保険証を借りようとしたり、雑木林でふたりきりになった相手に異常な身体の動きで迫る2等、「それ」と予感させるような雰囲気を随所に漂わせているから。というか赤ジャージに無精ひげとあの表情はやばいって。

健が怒りの問いかけの中で暗に示唆する以外にも、カラオケスナック経営の幹夫[赤堀雅秋]が酔っ払い際に「(連続殺人事件の犯人は)お前だろ!」と満を指したり3、あれほど異常な攻撃性を示す男として描かれた伊藤が唯一、満に対してはとりとめのない宇宙の話を語りかけたりと、満と伊藤に共通する点が劇中で次々あぶり出されます。駆け落ちの持ちかけや、浮気を表沙汰にしたいかのような自作自演といった投げやりが、全て不発か暴発に終わっている満と比べれば、流山にて気ままにノーガードな生活を続けている伊藤は、(確定はしていないものの)それこそ大変なことを成し遂げてしまっているかもしれないわけですが…あるいは伊藤にとっては、捕まることが現状の打破なのかもしれず、それもまた受動的な一面、何かを待っている若者の写像なのかもしれません。

虚空に青い鳥を探し求める満たち以外にも、この芝居に出てくる全員が生きづらそうにしています。特に、駆け落ちを本気で信じていた健の奥さん[小野ゆり子]や、暇で始めたデリヘルがやめられなくなっている幹夫の妻でスナックのママ、典子[宮下今日子]たち女性陣4こそが、出番の相対的な少なさはあれど、むしろ男たちよりも切実に青い鳥を追いかけている気がしてなりませんでした。

冒頭に引用した台詞は、これまたくすぶった人生を送っており、満が見下してもいる彼の兄の国男[皆川猿時]によるもの。上の空ばかり見つめている弟に対して、地に足をつけて生きろと言わんばかりに優しく、そして真剣に投げかける質問です。芝居の最後を飾るこの台詞の後に大音量でかかる ABBA が印象的で、また嫌いではない。

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情報

M&Oplays プロデュース 『流山ブルーバード』

  • 作・演出 赤堀雅秋
  • 開演 2018-01-11 19:00
  • 島根県民会館 大ホール
    • 島根は M&Oplays の地方公演の積極的な誘致に成功しているように見えます。下手な地方の政令指定都市なんかよりもよほど、良質な芝居を享受する機会に恵まれているのでは。他県からのアクセスは至難を極めますが…

  1. 真に何も成し遂げられていないのは、伊藤にへばりついていた挙げ句に消息不明になってしまう野宮[演:駒木根隆介]のような人間なんでしょうけど…

  2. この顛末が描き切られる前に舞台は暗転。

  3. これ以前に幹夫は伊藤に絡まれているはずなのに、こう指摘するのがまた何とも。

  4. もうひとり、どこかとらえどころのない淋しさを抱えるクレーマーの年配女性[平田敦子]も出てきます。