公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『パレード旅団』 / OFFICE SHIKA REBORN

shika564.com

劇団鹿殺しの主宰による、彼女がかつて触れた“名演”を自身の手で演出するプロジェクトの、立ち上げ公演。

こけら落としとなる今回の取材元は、第三舞台後期(いわゆる第三期)、1995 年に初演された同名の演目1です。第三舞台版は DVD 化もされており、既に視聴していたために中身を把握した状態での鑑賞となりました。

結論から言うと、「REBORN」と称するには変更された要素が少な過ぎたような気がして、肩透かしを喰らった感じです。というのも、元ネタが鴻上の 90 年代の芝居なので、台本に手を加えなければ当然あの年代の空気を纏ったままになるからです。「REPEAT」に近かったかな。一応フォローしておくと、劇伴なんかはオレノグラフィティが全編にわたっての書き下ろしを、一手に引き受けていたりはするのですが。

例えば序盤に登場する、いじめられっこ達の合言葉である「ドンタコスったらドンタコス」、この明らかに一定の年齢以上を要求する時事ネタなんかが、そのまま今回の上演台本に残っています。名作に再会したいという演出の言葉をそのままなぞるならば、忠実な再現も思惑通りということ?…の割には改変が無いというわけではなく、90 年代の世界観に「リア充」という語句が放り込まれたりもするんですよね。ネタとしてリア充ダンスが一発披露されたりもします。このへんから舞台設定の固まっていなさを感じてしまって醒めてくるというか、鴻上がコメントで寄せていた“ハード”さは望めそうにもない感じがありありと浮き出てきて、半ば諦めモードでした。

これ以上ギャグに関しては目を瞑るとして、この芝居の要である「家族論」と「いじめ観」の重奏について。初演台本では、これらは勿論 25 年前の感覚や解釈に基づいています。流石にそのままで今なお通用するものとは思えないです。ただ、(時事ネタに変更がなかった時点で予想がついたのですが…)やはり REBORN と呼べるような変更は見受けられませんでした。年代に応じて変質し得るこれら 2 主題がこの四半世紀でどう形を変えて、今ならそれにどう向き合っていくべきか、を織り込まないと、再演の結末が本当に「あの頃の芝居を見られて/演れて、良かった」だけで閉じてしまうのではないでしょうか。上の世代が浸れるその感慨を、そこそこ客席に散見された若い世代は共有し得ず、置いてきぼりになってしまう気がします。それこそ唐突に挿入される「リア充」ネタで単発的にウケるくらいしかやることがないというか。

鴻上の芝居自体が再演に向いていない可能性も少し考えてはいて、何故なら鴻上自身による近年の再演もうまくいっていないように見えるからです。程度は違えど、この公演と同じ課題に直面している気がする。ガワが、時事ネタや当時の風俗に固められているからなのだと思いますけど。そこから普遍的なテーマに関するフレームワークを取り出してガワを付け直していくとなると、それこそ新作を書いた方が色々と理に叶うかもしれません。再演をやりたいという制作側の意図とは真っ向から衝突しますが…。

元ネタ鑑賞者にとっては演技にもリファレンスが存在することになり、SHIKA の座組に対して、第三舞台の大高・小須田・山下・松重といった強い俳優陣が比較対象となります。SHIKA の面々と比べると松田さえもが、(少なくとも本作においては)強烈なアイコンと鴻上芝居への親和性とを備えていたんだなということに気づかされます。当時の俳優が当時の芝居を演じているの観ているわけだから当たり前なんですけどね。あと鴻上会話に多用される「えっ?」って返しは、やはり彼の演出ありきの“間”なんだなあとも。

改めてまとめると、この REBORN シリーズがリアルタイム世代向けの復刻企画とかなのであればまだしも、先述したように SHIKA 目当てと思しき若者もそこそこ見受けましたし、そういう側面からも「REBORN」という命名を、もっと咀嚼してほしく思いました。


『パレード旅団』

日時
  • 開演 2017-12-15 19:002
  • 於 新宿シアターサンモール