公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『まほろば』 / 演出: 日澤雄介

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先入観があるのはおそらく良いとはいえないのだけれど、初演(演出:栗山民也)のワンシーンを収めたこの VTR を観たからこそ今回、本作だけは見逃したくないと思ったのは事実だし、難しいところ。

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そして今回の新演出のゲネプロの様子もいくつか公開されている。

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早霧せいな演じるミドリや、中村ゆり演じるキョウコが板の上に現れてまず、ちょっと綺麗すぎるよな、と思った。これも多分に初演の秋山と魏のくたびれた感じが刷り込まれていたから、余計にそういう感想が先に立ったのだろう。そりゃあ元宝塚スターにすっぴん(に限りなく近いメイク)を施して板の上に出そうものなら、客席の一部がどのような様相を呈するであろうかも理解している(はず)ので、そうしろとは言わないし、言えない。だとすると、そもそも論と化してしまうことも解っている。

ただ、『まほろば』はそういった細部に神が宿るタイプの現代劇であり、リアリスムの芝居なように受け取れる。例えば、初演の VTR では聞こえるクマゼミの鳴き声(舞台は長崎である)。今回は記憶に残っておらず、残っていないということはおそらく本当に無かったか、新演出において限りなくオミットの方向に振り向けられていたかだ。例えば、縁側の配置。曾祖母の背中を見ることになる初演と、縁側に腰を下ろす彼女を前方から俯瞰する今回とでは、観客が立たされる視点というものが必然的に変わってくる。

演出家が異なる以上は、同じ台本から始まっても演出の着地点は違って当然であるし、また日澤は栗山とは異なる登場人物に焦点を当てたという旨をインタビューで語ってもいる(冒頭に貼ったインタビュー記事を参照)。機微自体は、異なる演出家でなくとも、初演と再演、もっと言えば初日と大楽、という風に、よりミクロなスケールにおいても変化しうる要素ではあるのだけれども(さすがに初日と大楽で縁側の向きは変わったりしないだろうが)。つまり正解がどうという話ではなく、キャスティングやメイクの問題にまで遡って、包括して好みの問題なのだ。

その好みがはっきりしたからこそ、藤木家の目の前を御輿が通りすぎていくあのラストシーンを観て、栗山演出でのそれを強く欲してしまった。 『母と惑星について、および自転する女たちの記録』 にも続いていく蓬莱の、どこか情に訴えすぎな感もある「女性の生命讃歌」とは、『母と惑星』におけるイスタンブールの色彩であり、その萌芽はまた、本作の御輿を視覚的には照明効果のみで表現するときの、燃えるような「あかり」ではないのか。あそこでシャーマニスムとエモとを強引にまとめて、(私を)巻き込んでくれるのは栗山演出なんじゃないかと思ってしまったのである。

日澤は日澤で、 『遺産』 にて素晴らしい人間讃歌を演出している。あちらのそれは、役者の佇まい、その立ち姿による「語り」であった。その違いに優劣はない。ただ、本当に栗山演出を観てみたいなと今回、思ってしまったのは事実で、なんだか申し訳ない。

男が描く女芝居には、特に本作のような妊娠、出産をテーマに据えている場合、女性からすればツッコミどころが多いのではないか、という気がする。蓬莱自身も客出しで女性客から直に言われたというエピソードを読める( https://www.umegei.com/mahoroba/#staff )。同時に、話が弾むような仕掛けにもなっているようで、観劇後の周りのおばさま方の会話は、悪くないテンションなのだが( 『星回帰線』 の終演後のおばさまトークは凄まじかった)。それどころか、上演中にもそれは苦笑のような形で現れたりする。その何かほっておけない感が、蓬莱節な人間讃歌の、人を惹き付ける魅力になっているのかもしれない。

人並みでない作家が人並みでない人々に贈る“人並み”を打ち砕くための祝福は、ここ、2008 年から始まったのだろうか。

変拍子やアフロビート的な、「2-4 ではないジャズ」は祭囃子に似ているんだな、と場面転換時の暗転選曲を聴いて思う。

出演

4 世代の、そして未だ名前のない 5 世代目に繋がる女系家族の物語。

1 世代目
  • 三田和代 → タマエ(ミドリやキョウコから見て祖母、ユリアから見ると曾祖母にあたる)
2 世代目
  • 高橋惠子 → ヒロコ(ミドリやキョウコの母、長崎のとある旧家である藤木家の現在の“柱”?)
3 世代目
  • 早霧せいな → ミドリ(ヒロコの長女、上京して久しかったはずが祭りの前夜に泥酔して実家に戻ってきた)
  • 中村ゆり → キョウコ(ヒロコの次女、シングルマザーで藤木家の居候)
4 世代目
  • 生越千晴 → ユリア(キョウコの娘、父親は不明、ミドリとほぼ同じくして東京から藤木家に帰ってくる)
4 世代目?
  • 安生悠璃菜・八代田悠花 → マオ(「瓦場のモトヨシさん」の所の娘、母親が蒸発したらしい、キョウコと懇ろな父親は御輿担ぎの為、祭り当日に急に藤木の家に置かれる)
    • W キャスト。観たのは八代田の回。
その他情報
  • 演出 日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
  • 作 蓬莱竜太
  • 開演 2019-04-24 11:30
  • 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ