公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『回転する夜』 / PONKOTSU-BARON project 第2弾

モダンで観たかった。

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PONKOTSU-BARON project

テニミュ』2nd シーズン出演の俳優 4 人[赤澤燈、西島顕人、味方良介、安川純平]がストレートプレイに挑むシリーズ。

今回はモダンスイマーズによる 2007 年の初演作に挑戦(ただし安川が公演期間前に急きょ降板)。

回転する夜

高熱を出して寝込んでいるノボル[演:赤澤燈]は、悪夢を見る。

兄夫婦の家に居候し、引きこもりそのものの生活を送る今の彼を形作ってしまった 5 年以上も前の夜が、生々しく夢の中で甦る。

夢から醒めたノボルは思う。例えば、自分の意見がなくその場その場で生きている金魚のフンのようなヤースケ[島丈明]が、あのときあんな風に自分を茶化してこなければ。

再び夢の中。あの日の夜、幼馴染との飲み会に、ヤースケはいない(見えない)。少し自分にとって都合のよくなった世界で、ノボルは幼馴染たちとの会話に進展を見出し始める。このままいけば、この後、兄[西島顕人]と結婚してしまう千穂さん[木乃江祐希]とやり直せるかもしれない。家業を継ぐべきは兄貴じゃない。“今夜”こそは兄と対峙できる、千穂さんと向き合える。でも、ヤースケの次はニッキ[逸見宣明]が。

目醒める。看病に来る兄嫁の千穂さん。ラジオから流れるジュリーの『サムライ』。また眠る。少しずつ自分の思う通りに変わっていく夜の中で、しかしどこかで、誰かのせいで結局は上手くいかない夜が回り続ける。ようやく全ての障壁を取り去って残ったものは、初めて対峙した兄の口から出てきた思いと、信頼できる唯一の幼馴染だったアッくん[味方良介]が去り際に残した冷たい言葉。

良かった

蓬莱竜太の書く“海”が本当に好きです。海でありながら、閉じている。徹底する方言使用とも相まって、どことなく閉塞感のある日本海沿いの町の雰囲気。石川に住んでいた時期が長いようだけれど、何かその頃に持っていたのであろう鬱屈したものが、密室劇であることと、戯曲の中の人間模様と、“閉じた”海に封じ込められている感じ。

蓬莱、あるいはモダンスイマーズに初めて触れたのは、「作劇の意識を根底から変えた」とされる句読点三部作から。ただ、『句読点』よりも 10 年さかのぼる本作においても、観ておぼえる心象に関しては近作と共通するものが確かに有る。その感覚は追い続けてみたいと思うし、勝手ながら底に流れるものにシンパシーも感じている。

テニミュ出身者がすごく頑張っていた。特に主役の赤澤と、アッくん役の味方は、演劇の虚構性を排するようなケレン味の無い演技。これは本にうまくハマっていたと思う。

今お前がここに居ってや、ちょっとスーッと行ったらそこは戦場やで。世界やで。

現実と現在にこそ夢を持って自衛隊に行ったはずの頼れる兄貴分だったアッくんが、高熱の夜に帰ってきてノボルに「ままならん」と一言ぼやく場面の、夢と現が編み上げた最後の望みが崩れるところ、非常に良かったと思った。

少し違和感をもったのは開演/終演時の美術。流行りのプロジェクション系映像効果の多用が、本編の少し古臭くこなれた雰囲気と全く合っていなくて浮いていた。今回の演出家が取ってつけたんだろうか。ラストシーンでネガ反転のような照明演出をかけたところにも引っかかり。まさか夢オチ演出じゃないよね。

客層はテニミュから流れてきたとおぼしき若年女性が多数。蓬莱の戯曲目当てで来た人間は少数だと思う。これを観て蓬莱の芝居に流れていった人たちがいるとおもしろいんだけどな。

反復する夜に、要所でラジオから流れだす沢田研二の『サムライ』。めちゃくちゃかっこいい。2016 年にもなってこの曲で成立させにくる芝居(再演だけど)の心意気、というよりこの曲そのものが客層にどのくらい刺さったのかはちょっと気になった。

モダンで観たかった

若手役者をほめた後で改めて書くのもなんだけど、モダンスイマーズの初演を観たいと強く思った。2007 年だし、ノボル君の夢以上に為しえない展開なんだけど。

そのくらい良い芝居です。モダンじゃなくてもいいからまた観たい。

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