公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『朝日のような夕日をつれて E ver.』 / STAGE THE WORKOUT

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始めに:酷評です

『朝日』を鴻上尚史ではない人間が演出するにあたって、当然懸念すべき一番の不安が、ものの見事に的中したなあ、と思った。

この芝居随一の特徴を挙げるならば、鴻上そして大高洋夫小須田康人を中心として節目節目に再演されてきたこと。加えて再演ごとに「おもちゃ」や「世相」のモチーフが更新され続けてきたことにあると思っていて。なかなかこういう芝居は他に観たことがなくて、具体的な細部の台詞は本当にバージョン毎にガラッと変わっていたりする。だから、『朝日』を『朝日』たらしめるのは戯曲の一言一句ではなくて、そのフレームワークではないのか?と常々思っていたんだけど。考えすぎだった?

第三舞台の全盛期には 4 年とか、短い時には 2 年という間隔で再演された本作は、その短い間にも変化する「おもちゃ」の最先端、あるいは「世相」の流行に追随するようにその枝葉を変え続けてきたはず。今回の公演は、鴻上・大高・小須田による(おそらくこの布陣では最後となった) 2014 版 から 4 年の歳月を経ている。それこそ「おもちゃ」と「世相」が変化するには充分すぎるほどの時間は経過した。蓋を開けてみれば、2014 版の台本から全くと言っていいほど手は加えられておらず、舞台装置や予算の都合から再現が厳しいと思われるギャグの部分のみ、申し訳程度に改変がなされていた程度だった。

2018 年に mixi の話題?ソシャゲの先端はパズドラ任天堂の相場感を 2014 年の台詞そのままで語ってどうするの?内村航平田中将大?いつの話をしているんだ。そりゃ大高や小須田といった歴戦の相棒みたいな役者も不在、少し前にオーディションで全員を採ったわけだから、1 年前から役者にネタ仕込みの市場リサーチからさせる1わけにはいかないという事情は分かってる。ネタだって、役者にエチュードさせ続けて練り上げることもできない。そういった負荷は今回、全て演出家(と脚本家)にいったんだろう。大変だ。でも、『朝日』を演るって、そういうことじゃないの?オール W キャストとか試みる前に、やることあったんじゃないか、とずっと考えてる。「おもちゃ」に関してもそう。「ソウルライフ」の次を考えないと。VR ゴーグルももう普及帯に入ってきて、プラットフォームの在り方を捏ねる段階は既に終わっているはずなのに。さすがに鴻上以外にここまで考えさせるのは酷な気もしてきたけど。でも、これほど鮮度が肝な芝居って他に無いからなあ。

改変せざるを得なかった箇所に持ってきたネタには、過去のバージョンのネタをあてがっている部分は多かった。例えば、両ゴドーの登場シーンで歌われた松山千春『長い夜』は、かつてのゴドー 1(尾崎豊、あるいは長渕剛としての)がウラヤマとエスカワに茶化される場面での、コスちゃん(小須田)の必殺ギャグが出典。「ゴド狼」で登場する第三のゴドーがアルプスの少女ハイジであるのは、みよこさんゆかりの物品を男達で奪い合うシーンでの、やはりコスちゃんの必殺ギャグから。こういったオマージュが手一杯で、本質にまで手が回らなかったのだとしたら、やっぱり準備あるいは覚悟の問題だ。

…と、E ver. のレビューにおいて散々に文句を言ったけれど、フレームワークの問題であるから、 M ver. においても言いたいことは同じ。そして当然、これらの問題に関して、役者陣は全く悪くないです。

E ver. について

オール W キャスト、2 組に分かれての上演において、どちらかというと若手でそろえたという座組。括弧内は 2018 年 11 月時点の年齢。

  • 渋谷宏之郎(25):部長・ウラヤマ・A
  • 粂谷大樹(??):社長・エスカワ・B
  • 今宮稜正(??):研究員・ゴドー 1・C
  • 飛山竜太(25):マーケッター・ゴドー 2・D
  • 石川晋(25?):少年・医者・E

事務所に所属していないと思われる人もいてプロフィールが不明なケースがあるが、少なくとも全員 20 代ではあるように見えた。『朝日』というのは複数の世界観が並行して描かれていて、立花トーイの世界にもゴドーを待ちながらの世界にも(他にも)、それぞれに異なる適齢観があるように思う。E ver. の年齢層はそのどれに対しても、まだちょっと若いかなと思った2

ちなみにフライヤー等では役者の並び順が、今宮→粂谷→飛山→渋谷→石川(飛山と渋谷は逆転するケースあり)。『朝日』ってゴドー 1 の話だっけ?

少年役の石川くんは良かったと思う。どこか京ちゃんのような笑顔のニュアンスを持ちながらもベースは全く異なって見えたし、伊藤ちゃんや松田さんみたいなペーソスに拠ってるわけでもないし。佇まいはこれまでのどの少年とも違う気がした。「ゴドーの覚醒」前のネタも、自らのエピソードなんだろう。あとハイジのコスプレめちゃくちゃ似合ってた。ハイジだな彼は。

頑張ってほしかったのはウラヤマ役の渋谷くん。演出側にも多少の問題はあって、例えば大高ウラヤマがギター弾くシーンで渋谷ウラヤマがギター弾く必要なんて、別にどこにもないわけだ。あれは大高がギター弾けるから使えるギャグなわけだから。何で改変せずに残しちゃったんだろ。

というより、それ以前の、ものすごく根源的な問題として、もしかすると大高洋夫って一切、代えの効かない役者なんじゃないかという気がした。『朝日』における芝居の要は、台本にも書かれているように少年だと思うんだけど、少年はあくまで最後の最後に効いてくるウワモノであって、本当に代えやミスのきかないベースラインはウラヤマなのではないかと。今まで観てきた『朝日』は、そのウラヤマが不動の大高だったから気がつかなかったんだ、たぶん。

最後に

…と、鴻上・大高・小須田を失って(?)はじめてわかる『朝日』のもろもろ。

135 を使わないゴドー 2 の登場演出は、けっこう好きです。

日時

  • 2018-11-10 17:00
  • 於 本所松坂亭劇場

  1. 『'91』のコメンタリーより。大高と小須田に公演 1 年前から課せられる市場リサーチ作業。

  2. そんなこといったら初演('81)の大高なんて当時は 21 歳かそこら、早稲田の学生だったわけですが。