公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『墓場、女子高生』 / 別冊「根本宗子」第7号

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西川だけじゃない。

メンコもチョロも、ジモもナカジも。みんなそれぞれに日野の自死に責任を感じていて、そのきっかけが自分の些細な言動にあったのではないかという思いが、高校という絶妙にまだ外の世界へと開放されきっていない自閉の中で増幅されていく。

世界はもっと開いているからこそ、そして日野もまた絶妙に閉じていたからこそ?

で、結局、その辺のサラリーマンである高田や、エゴイスティックな女教師である納見が同じように感じた日野への責任と、チョロ達クラスメートの感じたそれの差って、なんなんだろう。それはきっと、思いの強さ。しかしその思いこそ、上述したようにとても臨在感的に把握してしまいがちな、絶対的なものでしかない。独り善がりなものさしに幾度も測られたあげく、オカルトの力を依り代に(?)現世に引き戻された日野の抱えていた、遠藤歩の言葉1を借りるならば、日野の「地獄」を、想像することができないのが、他人の限界であり浅ましさだ。

でも、そんな彼女たちの思いの強さによって、その強さに比例するように、日野はあの日まで幽霊として、山彦や真壁らと墓場の周りで「生き」長らえることができていたのかもしれないじゃないか。

ほんとうに?ラストシーンでは、そこに誰が残る?何人残った?

真壁はいったい誰に生かされていた?山彦は?

日野から真壁が見えなくなったとき、真壁の思いは彼女に通じた?

うんこの話がしたいのに。みんな日野のしでかした、自殺というとんでもないまきぐその話がしたくて、オカルト研の武田まで巻き込んで日野を生き返したのに、彼女の核心は地獄だから。決して当人以外にわかる苦しみではないから。じゃあ、生き返った日野と一体なにを話せばいいのか、何もないじゃないか、というメンコの叫びだって、もっともだ。対人関係における本心のフィルタリング。そのフィルタを通してもらえなかった自分に気がついたときの、深いぜつぼう。高校生ではなく、大人になればそんなことには慣れっこになる、割り切れるという人もいるかもしれないけど、そうではないことも実際に見聞きするし、それこそ学生時代からの長い付き合いなんかがあれば何年経っても、ふとメンコやチョロのように取り残されたとき、それに気づいたとき、やっぱり苦しいんじゃないだろうか。

生きている中で、まだ死には立ち会ったことはないけれど、取り残されたようなことが少なからずあった。それはまさにメンコやチョロの視点のように突然に訪れるもので、「これからうんこします」という宣言、すなわち「さようなら」は存在しない。でも、距離として疎遠にならざるを得なかった自らの環境の変化において、むしろ自分から相手を「死んだことにする」すなわち「殺す」ことも増えていった気がする。殺す立場になってみれば、きっと仕方のないことで、他人が熱的あるいは情報的に死んでしまった…ように見えるときは、必然的にそこでやっぱり、他人は死んでしまうということであって。それでも今ここまで残ったノードに対して、― ビンゼがジモにそうしたように ― 唐突に訪れるかもしれない別れに備えて、「さようなら」と声をかけることが、自分にできるだろうか。ひとは、そう声をかけてくれるだろうか。

幻のように目の前に現出した夜の裏山キャンプ。再び訪れる日野との別れ。本当にもう終わり、最後なんだと悟ったクラスメート達の泣き叫ぶこだまと、西川の歌声のあと。季節が流れて残ったのは、チョロもメンコも西川も、ナカジもいない墓場。あのラストシーンで、友に向かって「さようなら」を叫ぶのが、他の誰でもなくビンゼ、というところで胸を絞めつけられた。そのあと、「想い」に目を向けるような数十秒を挟んで堰を切るように慟哭をはじめるジモにつられて、何度目かの涙が溢れた。

地獄は地獄として存在する。それは間違いない。地獄の中をのぞく必要も、理解する必要もそのふりすらも要らない。本当に要らないんだよそんなもの。その瞬間瞬間、そのひとの背後にある地獄の存在を間近に感じながらそれでも受容するという姿勢と、ビンゼがしたような「さようなら」。このふたつだけが、きっと、できる全て。

  • 根本宗子:日野
  • 安川まり:チョロ
  • 小野川晶:メンコ
  • 近藤笑菜:ナカジ
  • 山中志歩:ジモ
  • 椙山さと美:ビンゼ
  • 藤松祥子:西川
  • 尾崎桃子:武田
  • 小沢道成:高田
  • もりももこ:納見
  • ゆっきゅん:真壁
  • 川本成:山彦
  • 天野真希:想い

  • 脚本 福原充則
  • 演出 根本宗子

今年の観劇での収穫を挙げるとするならば間違いなく、福原充則という劇作家に出会えた、この一点に尽きる。