『プレイハウス』 / パルコ・プロデュース 演出: 根本宗子
プロデュース公演での根本作品もいくつか観て分かってきたんですけど、やっぱり初期プロットの段階で WEB 等に上げるあらすじと、完成した台本(あるいは芝居そのもの)をあらすじに圧縮した場合とでは、彼女に関して(も?)だいぶ異なってくるようで1。
今回でいうと大きな変更は、「あらすじ」において登場する「掃除婦」が実際は出てこない点、に集約されているような気がします。掃除婦はおそらく猫背椿が担っていたのであろう役で、しかしながら上演版において彼女は、ヤママチミキの心の中のもうひとりのミキ…劇中でいうところの「リトル」ですね、すなわち全く異なる役を演じていました。これは、本職が役者ではない GANG PARADE のメンバーを主役に据えたときに生じるであろう様々なものをバッファあるいはフォローするために、稽古前後を経て台本が改変されていく中で単に、そのようになっていったのであろうことが推察されます。猫背椿本人および脚本の根本も言及していました2けど、それが最終的に猫背無双みたいな状態になって、めちゃくちゃ大変だったみたいですけど。本当に物凄い台詞量だった。そしてそれをこなしきる物凄い猫背椿。
でもそういった改変は決して悪いことだとは思っていないです。それは上演の出来不出来うんぬんに対してというよりは、小説等とは違って他者の介在を回避することのできない「演劇(プレイ)」においては、稽古等を経ての改稿こそが他者とのコミュニケーションそのものであると、思っているからです。そこでフィードバックがかからないようでは、その演出家ないし脚本家はどうしようもない独り善がりであろうから、他者の介在のない、演劇以外の表現を模索したほうが絶対に良いはず。そして、このコミュニケーション、もとい相互間の意志疎通であったり、自己開示やその受容であったりというのが、本作の大きなテーマになっていたからこそ、この改変が鑑賞中に意識されたときに凄く腑に落ちてきた。制作プロセスが作中のテーマに繋がっている感じだったんですよね。
(劇中の)ヤママチミキは終盤、自らのリトルに、そしてリトルとの内的な会話にのみ終始していた今までの自身に別れを告げ、自分の言葉で、自身の思考をアウトプットしに、聖也の部屋へ向かいます。こういう、人が自己肯定へと至る過程を描く芝居がとても好きなので3、リトルとの別れのシーンで涙腺をグイグイ揺さぶられたわけですけど、自分をさらけ出した先、聖也からのフィードバックは予想外の彼の自己開示で…という感じで、そこまでのエモは一旦ぜんぶブッ飛んで4。それでも、どことなく 『クラッシャー女中』 を彷彿ともさせる会話劇の先にあったのは、どことなく消化不良の感を遺した『クラッシャー』よりも素敵な、その先にある、あってほしい、でもあっちにはあり得ない、希望の予感と余韻でした。若者向けなメッセージではあるし、それはおそらくキャストのファン層を考慮したものなのだろうけど。でもいい歳になっても全然そういうことができない人だっているし、劇中の“クソ男”たちはまさにそういった人々のカリカチュアライズだった。
恫喝は勿論のこと、沈黙だって、決して金じゃあないんだよ、っていう。話そう。
GANG PARADE の演技はしっかりしていたと思います。確かにどうしても猫背椿のようなプロ中のプロに投げないといけない部分はあったんでしょうけど、担当分の演技に違和感は全然なかった。今回はミュージカルということでギャンパレの既存曲に組み合わせた歌唱およびダンスのアンサンブル5があり、その中で身体表現のパフォーマンスがずば抜けて際立っていたキャン・GP・マイカが印象に残りました。ギャンパレでも振付担当みたいですね。あとは良い役どころを持っておきながらもうひとり、ダンスの躰さばきでも存在感を出していたユイ・ガ・ドクソンも良かったな。音楽はバンドによる生伴奏だったのも、ミュージカルとしての姿勢的にグーでした。
一方で、猫背椿によるヤママチミキ分の大幅増量によって、本来 W 主演であったはず6の聖也役、磯村勇斗の影が薄くなってしまっていました。当初はミキ(本体)と磯村とで双璧をなすような芝居だったのではなかろうか。ただ、聖也にも「リトル」を張り付けると話がごちゃごちゃしすぎる感じになるし、テーマに対しては先ず劇中にミキひとりの自己肯定プロセスがあって、エンディングの先に聖也のそれが続くと考えれば良くて。まあ、とにかく猫背椿さん大変おつかれさまでしたと、そういうお芝居でありました。
情報
PARCO プロデュース 2019 『プレイハウス』
- 作・演出 根本宗子
- 音楽 GANG PARADE
- 開演 2019-09-28 14:00
- 於 森ノ宮ピロティホール
- 出演
- GANG PARADE7:「プレイハウス」付の歌って踊れる風俗嬢たち
- カミヤサキ:リーダー格?、支配人の本命彼女
- ヤママチミキ:ギャンパレ側の主人公、漁村出身の引っ込み思案
- ユメノユア:不思議ちゃん系、挨拶がひとりだけ揃わない
- キャン・GP・マイカ:支配人のセカンド彼女(カミヤサキは感づいている)
- ココ・パーティン・ココ:「プレイハウス」の楽屋でいつも何かに対して不平を垂らしている
- テラシマユウカ:金髪担当、関西訛りが強い
- ユイ・ガ・ドクソン:メガネ担当、終盤の成行きでミキと聖也とのやり取りを深いところまで知る
- 月ノウサギ:(ミキより先に)ホスト(聖也ではない)と付き合っている
- ハルナ・バッ・チーン:高校生、ドラッグ中毒男と駆け落ちする
- ナルハワールド:二幕中盤からの出演8、ハルナの同級生で、「プレイハウス」の嬢が辞める時の規定「代わりは自分で連れてくる」に則ってハルナが連れてきた
- 磯村勇斗:歌舞伎町ナンバーワンのホスト「聖也」、その肩書ゆえに開示しづらい悩みを抱えているもうひとりの主人公
- 栗原類:ドラック漬けのジャンキー、のようで…
- 鳥越裕貴:聖也の同僚でナンバーツー、彼を出し抜こうと画策している
- 富川一人:「プレイハウス」支配人、ナンバーツーの地元の幼馴染
- ブルー&スカイ:ユメノユアに入れ込む中年男性、その人となりとは裏腹に所帯もち
- 猫背椿:ヤママチミキの「リトル」すなわちアルターエゴ、本体の感情が昂ると稀に実体化する
- GANG PARADE7:「プレイハウス」付の歌って踊れる風俗嬢たち