公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『皆、シンデレラがやりたい。』 / M&Oplaysプロデュース 演出: 根本宗子

高田聖子を刮目して視よ。

mo-plays.com

ストーリー

公式サイト(http://mo-plays.com/Cinderella/#story)に書いてあるストーリーと上演版とは、ほぼ別物。大筋ってここまで書き換わるんだ、という勉強にはなる。

ストーリー(上演版)

とあるアイドル、一ノ瀬陸(通称:りっくん)の追っかけで知り合った、質素な榎本[演:高田聖子]、スナック経営のママ神保[猫背椿]、ロリータ趣味の角川[新谷真弓]の 40 代女性 3 人組。旦那の金でりっくんに貢ぎまくる神保と、出どころは不明だが圧倒的な財力でりっくんに貢ぎまくる角川は、オタク活動への支出が相対的に劣る榎本に差別感情を抱きつつ、時には 2 人で陰口も叩きながら表面上は 3 人で仲良くしている。

神保がスマートフォンに乗り換えたことをきっかけに、オタク活動をツイッター上でも本格化させた 3 人。深夜 1 時にりっくんについてツイートすれば、彼がエゴサしてきてイイネをくれる。ツイッターって楽しい!活動の幅を広げていくうち、神保はりっくんが炎上していることに気づく。地下アイドルの類であろう、三村まりあ[新垣里沙]という女がりっくんの寝顔をアップしていたのだ。自分だけいい思いをしようとする三村まりあという女を、絶対に許さない。私たちのりっくんを守らなきゃ!女 3 人、あらゆる手を使ってインターネット上に三村まりあの悪評をばらまきつづける。夜を徹し続けて 1 週間、神保のスナックに籠って炎上工作を続けた 3 人はついに力尽き、死んだように眠り込んでしまう。

スマートフォン初心者であった神保のツイートは、位置情報が ON になっていた。スナックに籠って同一座標からツイートし続けていれば、居城を特定されて当然。眠りこける 3 人のもとへ三村まりあ本人と、彼女のマネージャーである筒井[小沢道成]が乗り込んでくる。

三村まりあが持ち込んできた大量のりっくんへのプレゼント、三村はこれが「シナモン姫」角川の貢ぎ物だから返却しに来たという。プレゼント禁止のりっくんに何故、どのような経路でプレゼントが送られ続けていたのか。明らかになるりっくんのホスト活動。ホストクラブというルートで貢物を送り続けていた角川。神保と榎本は結託して、角川を攻撃し始めるが…

一方で、身体に溜まった毒を今すぐ吐き出さないとどうにもならないという三村。3 人は当然その毒を、ネットを通じて悪評をばらまき続けた自分たちの所業であると断定していたが、三村の口から堰を切ったように流れ出した真実は 3 人の予想を裏切るもので…

榎本、神保、角川、三村、筒井。5 人の口論が渦巻くスナックのソファーでは、神保の旦那の連れ子、いっちゃん[根本宗子]が寝息を立て続けている。

アイドルに命をかけてきた 40 代の女たち。彼女たちのりっくんへの想いは果たして、どこへ行き着くのか。

感想

皆さんの遊びで使う 1 万円でも、
私にとっては、11 時間パートしないと貰えない 1 万円なんです。
だから、その 1 万円分の見返りに対して、私は、あなたたちよりよほど貪欲です。

ひどい人だってわかってるのに?
お金が勿体ないとは思わないんですか。

思わない。
だって、今まで払ったお金の分の見返りも、まだ私は回収できていないのに。

終盤の榎本と三村の会話より。

皆に観てほしい。

もう本当に、あらゆるオタクに観てほしい。立場を問わず。

あなたがオタクをする理由は何ですか?モチベーションは?いくらなら貢げますか、いくら貢ぎましたか?そのお金は、あなたがどのような対価を払うことによって手に入りましたか?あなたはそのお金を投じることにより、推しから何を得られましたか?あなたにとっての、推しからの対価とは何ですか?推しのどこに魅力を感じていますか?推しの何を信じていますか?あなたの信じるそれを推しが裏切ったとき、あなたは何を思いますか?何をしますか?推しを赦しますか?誰かを怨みますか?

最近、推しができました。推しというより、もはやあらゆる面において私淑するべき存在であるといえます。自意識が美しいと思っています。正当な対価なしに“貢ぐ”ことは、推しのその自意識にかかわる行動原理の否定に他ならないと考えています。ですから、正当な対価を与えうる機会を積極的に探します。榎本の手段で、角川のように圧倒的な財源を確保する努力を行います。そのほとんどは旅費などの間接費に消え、最終的には榎本のような雀の涙ほどの対価しか、相手には渡っていないかもしれません。それでも、その投資を惜しむことはありません。私にとっての対価は、その圧倒的な自意識を浴びることです。認知されたいとは思わない。私自身の承認欲求は存在せず、したがって対価としては存在しえないからです。彼女は、彼女みずから相応の対価を払うことを厭うことなく、吸収できるものを血肉に変えていくという根性を着実に履行している。少なくとも人前に出ている間、今までそれを破っているように見えたことはない。裏切ったときは、それ以降私淑するべき存在ではなくなるだけです。承認欲求のような自己都合の見返りは求めていないので、赦したり怨んだりすることはそもそも有り得ない。アウトプットでは、私は榎本にしか見えないかもしれない。でもそれでいいんです。だからこそ、この芝居が物凄く眩しいものに見えました。榎本はさらに裏切られている上で、純度が高かったからです。

シンデレラになる。

榎本のようなオタクは、確かに痛々しく見える瞬間もあります。結局、りっくんに金を供給し続けていた主力…トップオタは角川であり、神保です。しかし、神保と角川は“承認”に基づいてオタクをやっている。りっくんの“認知”が自身に向かないとき、あるいは、本当は自身に向いていないことが分かったとき、神保と角川はりっくんを見放した。最後までりっくんとの関係性を維持できたのは、榎本だけだった。それは榎本がひたすら自身の内面に貪欲だったからであり、それゆえ最後、彼女はシンデレラをする、シンデレラになることができるのでしょう。

神保や角川がいなければ、りっくんというアイドルは成立しなかったと誰しも最初は思います。でもそうではないことは、三村から語られ、かつ、いっちゃんに俯瞰される「経済」において、自明です。りっくんは三村の稼ぎのみでも生活はできていたのであって、神保や角川の金は彼の個人的な欲望を満たすためにのみ使われていた。その余剰経済の流れは、少なくとも物語終盤において完全に破綻をみましたが、ラストシーンにおいて榎本は誰よりも満たされた顔をしています。彼女は自身で完結した経済の流れを作り、またホストクラブという経路すらモチベーションに取り込むことで完全に孤高の立ち位置へ到達する。

これを書き上げた当時、前後の根本まわりの状況を勘案するに、作劇のモチベーションは、あれ1なのではないかと思っています。だからこそ榎本、そして三村という人間が生まれ、本作がここまで凄まじいエネルギーを持つようになったのではないか。どのようなきっかけで根本を知っても、そのコンテクストを問わず、この作品は観てほしいなあと思いました。凄いですよ。

現実的には数々の齟齬が起き、存在に無理が発生する榎本のような役柄を、高田聖子という女優が本当に有無を言わさぬ領域まで押し上げています。終盤の独白を観てほしい。100 分ぶっつづけ、退場など途中数分しかないような中で 40 代の役者は流石にどんどん顔がくずれてくるのですが、展開と台詞ひとつで、化粧直しもないのに次の瞬間から顔にハリとツヤが戻るんですよ。開演直後よりも若返っているといっていい。退場なく連続的に板の上に立ち続けている人間の貌が、表情が、肌が、不連続に若返るんです。“カット”のある表現では到達しえない境地がそこにある。

タイトルをうまく織り込んだ展開も素晴らしく。そして、最後のシャンパンタワーが本当に、本当に美しい。録画なのに涙が出そうになりました。

情報

M&Oplays プロデュース 『皆、シンデレラがやりたい。』

  • 作・演出 根本宗子
  • 2017-02-16 ~ 2017-02-26
  • 本多劇場
  • BS スカパー!「STAGE LEGEND ~伝説舞台~」にて録画放送

  1. あれです。