公演中でもネタバレします。Google+ から過去ログも加筆移行中(進捗 7 割程度)。

『いつかそのアレをキメるタイム』 / シベリア少女鉄道

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ものづくりに情熱を傾けつづける町の零細企業「浅見製作所」の浅見と加藤は、かつての同僚で今は取引先の大企業「ペルセウス」のマネージャーである吉田に嵌められ、経営難に陥った。

諦めずに、今よりももっと良いヤツを作ればいいんじゃないスか。町工場のスタミナ溢れる部下、石松らの踏ん張りによって、新技術を取り込んだ彼らのそれは、劣勢を挽回せんと一歩、また一歩と開発が進む。

社員たちは絆を確かめ合うかのように、小さな社長室で互いに熱い言葉を交わし合う。工員の小関が、棚の上にあった浅見の若き頃の家族写真を手に取り、彼らのモチベーションの源、そして浅見製作所は浅見の宇宙への夢を背負ってロケットのバルブ開発に取り組んでいること、その技術を応用した人工弁が、少女さなえちゃんを心臓の病気から救ってもいること、等を訥々と回想する。そこに浅見が一言、釘を刺す。

余計なことを言うんじゃない。

小関の独白によって、浅見製作所が何を作っているかが明らかになった瞬間から、芝居が進まなくなる。「バルブとか良く分からない」「ごっこ遊びには限界がある」…慌てふためく彼らのもとにペルセウスの横槍が入り、彼らのバルブ開発は遂に立ち直りが不可能なところまで追い込められてしまった。

浅見は新規事業への参入を決意する。

◆◆◆

事業参入によってかつての活気以上のものを手に入れた浅見製作所。製作所が新聞記事の一面を飾り満悦の彼らであったが、その記事に書かれた一文から、またもやペルセウスに嵌められたことを知る。

濱野ら工員の奮闘と、小関の秘策によって、彼らの新製品は今までにない数値を叩き出した。そこで工員の一人、川井が満を持した恍惚の表情で、彼らの作るソレの正体に関して、(靴の)ソール、という単語をぶちまける。

決めるのをやめろという浅見らの警告は遅く、ソウル(魂)という聞き間違えを装うにも後の祭り。浅見製作所は百年つづいた老舗の足袋屋だった。そういうことになった。直後、さなえちゃんの心臓がおかしくなる。追い打ちをかけるように、彼らと共同研究を行っていた藤原が、取引の中止をも求めてきた。再び窮地に陥った浅見製作所。

浅見は決断に踏み切る。新しい事業の創出によって、再び彼らは栄光を取り戻せるはずだ。

◆◆◆

浅見の嘆願などの紆余曲折を経て、一時は苦悶の表情を浮かべながらもパートナーとして戻ってきた藤原。彼の協力を取り付け、バルブでも、ソールでもない、全く新しいモノを生み出すことに成功した浅見たち。棚の上の写真立ては隠したから、小関や川井に回想される心配もない。彼らは再び技術者としての薔薇色の時を謳歌していた。加藤が、めちゃくちゃ丈夫な紙コップの開発、という設定を決めるその時までは。

紙コップと宇宙はどう考えてもつながらない。開発協力からは手を引くと、突然手のひらを返す藤原。くわえて、ペルセウスで手駒として働きはじめる、石松の裏切り。今度こそ浅見製作所に未来は無いのか。今までにない、全く新しいモノを生み出すしかないのか。

◆◆◆

…ものづくりへの、家族への、熱き想い。一時は裏切っても、必ず帰ってくる工員の絆。いつもの場所で、浅見は愛娘に語りかける。おめえには、宇宙みてえな無限の可能性が拡がってんだ。浅見の熱い台詞は、もはや呂律が回っていない。

そこにまたもや入るペルセウスの妨害。今回はなんとペルセウス吉田が、設定の詳細を「キメ」てしまった。恍惚の表情で地面にへたりこむ吉田。便乗するように、「キメ」た彼らにジェラシーを溜め込んでいた登場人物たちが次々と、技術設定だけでなく人物に対してまで、場違いな設定をキメていってしまう。

浅見は娘を庇って前に出た瞬間に役指名を受けてしまい、女子高生になってしまった。パラドックスによって消失してしまう娘。加藤は猫として生きていくことになる。その他の工員も、国際的な犯罪シンジケートのエージェント、受験生、地下アイドル等に変化してしまう。

◆◆◆

石松は日本語話者ではない外国籍になってしまい、言葉が通じないことから、無言でオペレーションしていれば何とかなるコンビニ「ペルセウス」へと身を寄せる。マネージャー(店長)吉田の元で手駒として働く石松は、おにぎりに関わる不始末でペルセウスを放逐されて…

職種のサラダボウルと化した製作所の工員たちは、新規事業開発のためのキャッシュ調達にセクシー女優、小関の着用済み靴下をオークションに出品する。パソコンを前にする彼らの前で、その新規出品はかつてない数値を叩き出し…

一方、女子高生になってしまった浅見は、愛娘をパラドックスの海から引き寄せるため、スケベなおじさんと化した藤原に、ある取引を持ちかけていた。苦悶の表情を浮かべる藤原の決断は…

果たして浅見たちは、宇宙への夢、情熱、熱い想いを、取り戻すことができるのか。


  • 池井戸潤ばかにしすぎだ…。読んだことないけど。

    • 文系の書いた“技術系ビジネスドラマのテンプレート”は、その技術テーマを具体的にしなくても勢いだけでなんとか再現できてしまうのではないか、みたいな内容で、凄い、、、

      • 下町ロケット』と『陸王』が混ざったあたりで悪意マックス。

      • 私が池井戸を読まない理由もこれに近いけれども、、、読むか?!

      • 銀行は出てこない。セクシー女優で資金調達するから。

  • 前半の展開に中盤でコアとなるタネをトッピングして、後半でリフレインをかけながらウケをドライブさせていくスタイルは、『カメラを止めるな!』のそれ。

    • というか「シベ少」のスタイルがこういう感じらしい。

    • 『カメ止め』とか、池井戸ドラマとか、そういう他の“マス”や“バズ”に触れていないと真の文脈は把握できない、という点では、かなり面倒くさい部類の作劇。

    • 前半の早いところで構造(技術テーマを具体的にしないで『下町ロケット』を演ってばかにする)が分かったから良かったものの、3 分に 1 回は暗転を挟む序盤の展開と、TV ドラマ系の演技をオーバーに振った演出のコンビネーションには、さすがに集中力が切れそうになった。というか切れた。

      • 構造に気づいてなかったら途中で帰ってたかもしれない。

      • 後半はさすがにそんなことは無く、流れるような伏線回収と天丼のようなくだらなさで、たまに笑いも洩らしながら観れた。

  • オチのあのネタは 100 人くらいは考えてそう。

  • 『カメ止め』構造以外の特徴的なフォーマットとしては、

    • 役名が無い。全員キャストの名前がそのまま役名になっている。

      • 浅見紘至の浅見製作所。
    • カーテンコールが無い。ラストシーンから暗転を挟んですぐ、客席側の照明が点いて客出し。

      • 客も軽く拍手してそそくさ出ていったので、恒例っぽい。

      • カーテンコール無しの演劇は、聞いたことはあったものの経験したのは初めて。これはこれで予定調和な感じもした。

  • さすがにもうなんかこういうメッタメタな芝居でゲラゲラ笑える心身ではなくなってきたかなという感じがした。

    • ネタバレ自粛/厳禁みたいな同調圧力が最も働きやすい類の芝居であるため、一見さんが行く機会がおそらく物凄く限られてくるコミュニティな感じがあって、それもなんだか。

    • タイトル、イメージビジュアル、PR 文など総動員をかけて鑑賞後の伏線咀嚼に供してくる練り方に対しては、特に 2 回鑑賞前提という感じは受けなかった。そこは別に嫌いではない。


  • 浅見紘至(デス電所
  • 加藤雅人(ラブリーヨーヨー)
  • 吉田友則
  • 藤原幹雄
  • 小関えりか
  • 風間さなえ
  • 濱野ゆき子
  • 石松太一(青年団
  • 川井檸檬
  • 美鈴あおい
  • ほか
    • ほかいた?

  • 開演 2019-02-11 14:00
  • 於 赤坂レッドシアター